けられながら忘れていたあの傲慢《ごうまん》な精神を、ふたたび見出したのだった――弱点と美点とから共に来る傲慢さ――自分の徳操を誇り自分が陥ることのない過失を軽蔑《けいべつ》する、その無慈悲な正直、申し分なきことにたいする尊重、「不規則な」優秀さにたいする顰蹙《ひんしゅく》的な軽蔑。ミンナは常に自分が正しいという落ち着いたもったいぶった確信をいだいていた。他人を批判するのになんらの度合いをも設けなかった。それに元来他人を理解しようとの念がなかった。自分のことばかりにかかわっていた。彼女の利己主義は漠然《ばくぜん》たる抽象的な色に塗られていた。「自我」が、「自我」の発展が、たえず問題であった。彼女はおそらく善良な女で人を愛することもできたであろう。しかし自分自身をあまりに愛していた。ことに自分自身をあまりに尊敬していた。「自我」の前で主の[#「主の」に傍点]祷《いの》り[#「り」に傍点]や聖母の祷り[#「聖母の祷り」に傍点]をたえず唱えてるがようだった。彼女が最愛の夫でも、彼女の「自我」の品位に相当した尊敬をたとい一瞬間でも欠くならば――(そのあとで彼がどんなに後悔しようとも)――彼女はま
前へ 次へ
全339ページ中239ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング