4−6]《こめかみ》を両手にはさんで、やさしく抱きかかえて、そして言った。
「かわいそうに!」
 彼女は彼を押しのけそうにした。彼は言った。
「僕を恐《こわ》がってはいけません。僕はあなたをよく愛しています。」
 すると、フランソアーズの蒼《あお》ざめた頬《ほお》に涙が流れた。彼は彼女のそばにひざまずいて、二滴の涙が落ちかかってる、

[#ここから3字下げ]
いとも美わしき長き手[#「いとも美わしき長き手」に傍点]……
[#ここで字下げ終わり]

の上に唇《くちびる》をつけた。
 それから彼は席についた。彼女は心を取り直していた。そして、また静かに話をつづけた。
 ついにある作家が彼女を世に出してくれた。彼はこの一風変わった人物たる彼女のうちに、一つの悪魔を、一つの天才を――そして彼のためにさらにいいことには、「一つの劇的人物、一時代を代表する新しい女」を、見出したのだった。もとより彼は、他の多くの女と関係したあとであって、彼女にも手をつけた。そして彼女も、他の多くの男に身を任せたと同様に、愛もなく、愛と反対の感情をさえもちながら、彼に身を任せた。しかし彼は彼女を有名にしてくれた。彼女
前へ 次へ
全339ページ中173ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング