た強みであった。観客の注意が彼女の一身に向いていないうちは、彼女の演技は少しも成功を博さなかった。観客が彼女に興味をもち出してからは、彼女の演ずるものはすべて素敵だと思われた。実際彼女を見ると、多くはつまらないその脚本を忘れるだけの価値があった。彼女は脚本を自分の生命で飾っていた。一つの不可知な魂から形づけられてるその肉体の謎《なぞ》は、クリストフにとっては、彼女が演じてる脚本以上に人の心を動かすものだった。
 彼女はきっぱりした悲壮な美しい横顔をもっていた。古ローマ風の強調された線は少しもなかった。パリー風のジャン・グージョン式な若い男とも女ともつかない、繊細な線ばかりだった。短くはあるが格好のよい鼻。唇《くちびる》の薄いやや苦《にが》みばしった美しい口。何か人の心を打つものがあり、内心の苦しみの反映が現われてる、若々しい痩《や》せ形の怜悧《れいり》な頬《ほお》。きかぬ気らしい頤《あご》。蒼白《あおじろ》い顔色。冷静の習慣がついていて、しかもなお透き通っていて、魂が皮膚の下全体に広がってるような顔だちが、世には往々あるものだが、彼女のもその一つだった。髪の毛と眉毛《まゆげ》とはたいへ
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