K慣を失ってしまっていた。)――彼女は娘たちにだしぬけのやさしい言葉をかけた。娘たちは怖《お》ずおずしていて、気圧《けお》された囁《ささや》きで答えるばかりだった。娘たちはやはり夫人を恐がっていた。前よりいっそう恐がっていた。その扉の前を通るときには、つかまりはすまいかと気づかって駆け出すようになった。彼女の方では、身を隠して二人を見ていた。恥ずかしい思いをしていた。亡くなった娘に全部独占の権利がある愛情を、少しばかり盗み取ることのような気がした。彼女はひざまずいて娘に許しを求めた。しかし生きそして愛する本能が眼覚《めざ》めた今となっては、彼女はどうすることもできなかった。その本能のほうが彼女より強かった。
ある晩――クリストフが外から帰ってきたある晩――家の中がいつになくごたついていた。ヴァトレー氏が胸の痛みで頓死《とんし》したところであることを、彼は知った。あとに一人残された娘のことを考えて、彼はしみじみと同情を覚えた。ヴァトレー氏の親戚《しんせき》は一人もわかっていなかった。そして娘はほとんど無一文の状態で残されたらしかった。クリストフは大胯《おおまた》に階段を上がっていって、
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