翌ヘ怒って窓を閉《し》めた。音楽は室の奥までも追っかけてきた。彼女はそれにたいして一種の憎悪《ぞうお》を覚えた。クリストフに演奏をやめさせたかった。しかし彼女にその権利はなかった。やがて毎日同じ時刻に、ピアノが始まるのをいらいらしながら待つようになった。始まるのがおそいと、いらだちはますます強くなった。彼女はその音楽を最後まで厭《いや》でも聴《き》かせられた。そして音楽が終わってしまうときには、いつもの無情無感の境地にはなかなかはいれなくなっていた。――そしてある晩、暗い室の隅《すみ》に縮こまってる彼女のもとまで、遠い音楽が、壁や閉め切った窓越しに響いてきたとき、彼女はぞっと身震いを感じて、涙の泉が新たにほとばしってきた。彼女は窓を開いた。それから涙を流しながら耳を傾けた。音楽は雨に似ていて、彼女の涸渇《こかつ》した心に一滴ずつしみ込み、その心をよみがえらせた。彼女はふたたび、空を星を夏の夜をながめた。生にたいする興味が、人間的な同感が、まだ蒼白《あおじろ》い曙光《しょこう》のように現われてくる心地がした。そしてその夜、幾月目かに初めて、娘の面影が彼女の夢想のうちに現われてきた。――わ
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