ノもっとも不足してるところのものだった。彼は世の卑陋《ひろう》さが厭《いや》になって、世の中から引退していた。大なる知力と異常な芸術家的天分とをもっていながら、大芸術家となるにはあまりに繊弱だった。およそ大芸術家たるものは、何物をもいやがらないものである。あらゆる健全なる者の第一の掟《おきて》は、生活するということである。天才にあってはそれがなお強力となる。天才はより多く生活するからである。ところがオリヴィエは生活から逃げていた。身体も肉も現実との関係もない詩的作為の世界に、漂い浮かんでいた。世には、美を見出そうとして、もう過ぎ去った時代のうちに、もしくはかつて存在しなかった時代のうちに、美を捜し求めたがる人々がいるが、オリヴィエもその一人だった。人生の飲料は、今日では昔ほど人を酔わせるものではないと思ってるかのようである。かかる疲れた魂の人々は、人生との直接の接触をきらい、人生を堪え得るのはただ、過去の隔てによって織り出される幻影の帷《とばり》を通してであり、昔生きてた人々の死語を通してである。――クリストフとの交わりは、オリヴィエをそういう芸術の幽界からしだいに引き出した。彼の魂の
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