「。」
「ではシュトラウスをきけというのか。」
「それもいけない。君たちを破滅させるばかりだ。そんな不養生な物を飲み込んでもちこたえるには、僕たちドイツ人みたいな胃袋をもっていなくちゃいけない。でもドイツ人でさえ実はもちこたえ得ないんだ……。シュトラウスのサロメ[#「サロメ」に傍点]……傑作だ……けれど僕はそれが書かれたことを好まない……。僕は憐《あわ》れな老祖父や叔父《おじ》ゴットフリートのことを思い出す。彼らはいかに深い尊敬としみじみとした愛情とで、この音響の逸品たるサロメ[#「サロメ」に傍点]のことを僕に話してきかしたろう!……ああいう崇高な力を自由に駆使し、しかもあんなふうに使用するとは!……それは炎を発してる流星だ! ユダヤの娼婦《しょうふ》たるイゾルデ姫だ。痛ましい獣的な淫乱《いんらん》だ。ドイツの頽廃《たいはい》の底に唸《うな》ってる、殺害や強姦《ごうかん》や不倫や犯罪などの熱狂だ……。そして、君たちのほうには、フランスの頽廃のうちに呻《うめ》いてる、逸楽的な自殺の発作がある……。一方は獣、そして一方は餌食《えじき》。それで人間はどこにいるのだ?……君たちのドビュッシーは
前へ 次へ
全333ページ中209ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング