できない……。」
「できますとも。なんだと思ってるの? あなたが自活できるようになるまでの間のことよ。私が引き受けるわ。見ててごらんなさい、私がやってみせるから。ああ、お母《かあ》さんが私のするとおりに任しててくだすったら、もうちゃんとできてたのに……。」
「何をするつもりなの? 私は姉《ねえ》さんに恥ずかしいことをさせたくない。それに姉さんにはできやしない……。」
「できますよ……。働いて生活をするのは――正直でさえあれば――少しも恥じることはありません。心配しないでちょうだい、お願いだから。見ててごらんなさい。万事うまくいきます。あなたは幸福になります。私たちは幸福になります。ねえオリヴィエ、この方[#「この方」に傍点]も私たちのせいで幸福になります……。」
 二人の子供だけが母の柩《ひつぎ》の供をした。二人はたがいに同じ心から、ポアイエ家へは何にも知らせないことにした。ポアイエ家の人たちは、二人にとってはもはやないも同様だった。母にたいしてあまりに残忍だったし、母の死の一原因だったのである。門番の女から他に親戚はないかと聞かれたとき、二人は答えた。
「だれもありません。」
 あら
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