屈辱よりもさらに、娘がそういう地位に陥るということであり、ことに自分のもとから娘が遠く離れるということであった。いかに不幸であっても、そしてまた、不幸であるからこそ、彼らはいっしょにいたかったのである。――ポアイエ夫人はそれをごく悪く取った。生活の方法がないときには高ぶってはいけない、と彼女は言った。ジャンナン夫人は、彼女の心なしをとがめずにはいられなかった。ポアイエ夫人は、破産のことやジャンナン夫人が借りていった金について、ひどいことを言いたてた。二人は和解の道のない喧嘩《けんか》別れをした。関係はすべて絶えてしまった。ジャンナン夫人はもう一つの願いしかもたなかった、借りた金を返済すること。しかしそれが彼女にはできなかった。
無益な運動がつづけられた。幾度もジャンナン氏の世話になった同県の代議士と上院議員とを、ジャンナン夫人は訪問した。しかしどこへ行っても忘恩と利己主義とにぶつかった。代議士は手紙へ返事もくれなかった。彼女が自分で訪れてゆくと、不在だとの答えだった。上院議員は彼女の境遇に粗雑な同情を寄せた口のきき方をし、その境遇も「あの悪いジャンナン」のせいだとして、ジャンナンの自
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