になくなっていった。毎晩財布の中がますますむなしくなってるのを見ると、彼らは胸迫る思いがした。つつましい生活をしようとしたができなかった。それは一つの学問であって、子供のときから実行していなければ、学ぶのに幾年もの困難を経なければならない。生来経済家でない者は、経済家たらんとして時間をつぶしてしまう。金のいる新しい場合に臨むと、それに打ち負けてしまう。倹約はいつもこのつぎこのつぎへと延ばされる。そして偶然、わずかなものを儲《もう》けるかあるいは儲けたと信ずるときには、それを口実にすぐいろんなことに金を費やして、その全額は儲けの十倍にもなってしまいがちである。
数週間たつと、ジャンナン一家の資力はつきはててしまった。ジャンナン夫人は、残りの自尊心をも捨てなければならなかった。彼女は子供たちに知らせないで、ポアイエに金の無心をしに行った。彼女はくふうして、彼一人にその事務所で会った。生活できるだけの地位を見出すまで、金を少し拝借したいと願った。ポアイエは気が弱くかなり人情深かったので、返事を延ばそうとしたあとですぐに心がくじけた。一時の感動を制しきれずに二百フラン貸し与えた。がもとよりそ
前へ
次へ
全197ページ中76ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング