らかよくなるのを見たかった。しかし彼は土地の美景に酔っていた。そして知らず知らず悲しい考えを避けていた。たいへん気分がいいと彼女から言われると、彼はそれをほんとうだと信じたかった――反対だとよく知ってはいたけれど。それに彼女は、弟の晴れ晴れしい元気を、清い空気を、ことに休息を、深く楽しんでいた。幾年もの恐ろしい努力のあとについに休息し得ることは、いかに楽しいことだったろう!
オリヴィエは彼女を散歩に連れ出したがった。彼女も彼といっしょに歩き回るのは愉快だったろう。しかし幾度も、元気に出かけたあとで、二十分間もたつと、息が苦しくなり胸がつまってきて、立ち止まらなければならなかった。そこで彼は一人遠足をつづけた――それも危険のない山登りなどだったが、彼女は彼がもどってくるまでひどく心配をした。あるいはまた、二人はいっしょに手近な散歩をした。彼女は彼の腕にもたれ、小足で歩きながら、たがいに話をした。彼はことに饒舌《じょうぜつ》になり、快活になり、これからの計画を語ったり、冗談を言ったりした。谷間の上の山腹の道から、静かな湖水に映ってる白い雲をながめ、水たまりの面を泳いでる虫のような船をなが
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