条の光がさし込んできた。そこで彼はすぐれた答案をだいぶつづった。それでも及第には不十分だった。その苦難から出て来た彼のがっかりした様子を見て、アントアネットは落第の余儀ないことを予見した。そして彼女も彼と同じくらいがっかりした。しかし様子には現わさなかった。そのうえ彼女は、もっとも絶望的な情況にあっても、不撓《ふとう》の希望をもちつづけることができるのだった。
 オリヴィエは入学ができなかった。
 彼は落胆してしまった。アントアネットは別に大したことではないように微笑を装った。しかしその唇《くちびる》は震えていた。彼女は弟を慰め、単なる不運ですぐに取り返せると言い、来年はずっと上席で入学できるに違いないと言った。今年彼の成功することがいかに彼女に必要であったか、もう身体も魂もいかに消耗されつくしてる気持がしてるか、も一年同じことを繰り返すのがいかになしがたい気持がしてるか、それを彼女は言わなかった。それでもとにかくも一年やらねばならなかった。もしオリヴィエの入学前に彼女がいなくなったら、オリヴィエはけっして一人で戦いをつづけてゆく勇気はないだろう。彼は人生からのみつくされてしまうだろう
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