。ユダヤ人らは多くの欠点をもってはいるが、しかしまた大なる美点を、おそらくはあらゆる美点のうちの第一のものをもっている。彼らは生活者であり、人間的である。人間的なものならいかなるものにも無関心でなく、また生活してるすべての人に同情をもっている。真の熱い同情の念は欠けてるとは言え、不断の好奇心をそなえていて、なんらかの価値ある魂や思想なら、たとい自分らの魂や思想といかに異なったものであろうとも、それを捜し求めている。と言って彼らは一般に、それを助けるために大したことをなすのではない。なぜなら、彼らはまた同時に、利害の念にあまり多くとらわれていて、世俗的な虚栄心などに支配せられてはしないと自称しながらも、やはりだれよりももっとも多くそれに支配せられてるのだから。しかし少なくとも、彼らは何かをしている。そして現代の無情な社会のうちにあっては、それでもなお多とすべきである。すなわち彼らは、活動の発酵素であり、生活の酵母である。――アントアネットは、カトリック教徒らのうちで、氷のように冷淡な壁へぶつかったので、ナタン夫妻が示してくれる同情はいかに皮相なものであったにせよ、その価をだれよりもよく感
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