近づきになりましたね。御紹介するにも及びませんでしょう。この人は今晩あなたのためにいらしたんですよ。」
すると二人は、ちょっと気兼ねをしてたがいに離れた。
クリストフはルーサン夫人に尋ねた。
「どういう人ですか。」
「まあ!」と彼女は言った、「あなたは御存じないんですか。きれいな詩を書かれる青年詩人ですよ。あなたの崇拝者の一人ですよ。りっぱな音楽家で、ピアノがお上手《じょうず》です。あの人の前では、あなたのことを批評はできません。あなたに惚《ほ》れこんでるのですから。このあいだも、あなたのことで、リュシアン・レヴィー・クールと喧嘩《けんか》になりかかったのですよ。」
「ああそれはありがたい!」とクリストフは言った。
「でも、そのリュシアンさんにたいしてはあなたの方が悪いんですよ。あの人もやはりあなたを好きですもの。」
「そんなことがあるものですか。たまらないことです。」
「確かですよ。」
「いえ、決して決して! 私は好きになってもらいたくはありません。」
「ちょうどあなたの崇拝者と同じことをおっしゃるのね。あなた方はどちらも狂人同士ね。その時は、リュシアンがあなたのある作品を説明し
前へ
次へ
全387ページ中385ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング