「天国の兄弟」――の名前をもってるサン・ミシェル橋のそばを通りかかると、彼はどうしても立ち止まらずにはいられなかった。古本屋の箱の中にはまだ貴《とうと》い書物がはいっていた。彼はそれを全部読んだ。読み終えるのに二時間近くもかかった。そのためヘヒトとの面会の時間を遅らした。それからヘヒトに会うために、ほとんどその一日をつぶしてしまった。そしてようやく新しい仕事を頼まれて、金を払ってもらえた。彼はすぐさま古本屋へかけつけた。他の者から買われてやしないかと気づかわれた。もちろん買われていても大した不都合はなかったろう。ほかのを手に入れることは容易だった。しかしクリストフは、その書物がありふれたものかどうか知らなかった。それになお、ほしいのはその書物であってほかのではなかった。書物を愛する人々は、ややもすれば拝物教徒となりやすい。汚点のある汚《きたな》いページも、それから夢想の泉がほとばしり出てきたせいで、神聖なものとなるのである。
 クリストフは家に帰って、夜の静けさの中で、ジャンヌの受難の福音書を読み返した。人の手前もないのでもはや感動を押えるに及ばなかった。その憐《あわ》れな羊飼いの少女
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