ではあるまい。クリストフは、快楽を唯一の目的とし信条《クレド》としてる四海一家的な社会を軽蔑《けいべつ》していた。――もちろん、幸福を求め、人間のために幸福を欲し、また、ゴートのキリスト教から二十世紀間人類の上に積み重ねられてる、弱気な悲観的な信仰を撲滅することは、いいことには違いない。しかしそれは、他人の幸福を欲する寛大な信念であるという条件においてでなければならない。さもなくんばなんであろう。最も憐《あわれ》むべき利己主義のみではないか。他人が苦しむのを平然と看過しながら、自分の官能へは最小の危険で最大の快楽を与えようと求むる、享楽家どもばかりではないか。――そうだ確かに、彼らの客間《サロン》的社会主義は人の知るとおりのものである。……しかし、彼らの快楽的主義主張は、彼らと同様な「脂肪」の徒、肥満の「選良」にとってのみ価値あるのであって、貧しい人々にとっては害毒であるということを、彼らはだれよりもよく知らないのであろうか?……
「快楽の生活は富者の生活である。」

 クリストフは少しも富者でなかったし、また富者となるために努めもしなかった。多少の金を手に入れると、すぐにそれを音楽上
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