だ。父はいたってやさしく、気が弱かった。彼はりっぱな血統の老イタリー人で、強健で快活で愛想がよかったが、しかし多少子どもらしいところがあって、娘の教育を指導することがとうていできなかった。その老ブオンテンピの妹に当たるストゥヴァン夫人は、葬式のためにやって来て、娘の一人ぽっちな境遇にびっくりし、喪の悲しみを晴らしてやるために、彼女をしばらくパリーへ連れて行こうとした。グラチアは泣いた。年とった父も泣いた。しかしストゥヴァン夫人が一度思い定めた以上は、もうあきらめるよりほかに仕方がなかった。彼女に逆らうことはとうていできなかった。彼女は一家じゅうでのしっかり者だった。パリーの家においてさえ、すべてを支配していた、夫をも娘をも、また情人らをも――というのは、彼女は義務と快楽とを同時にやってのけていた。実際的でしかも熱情的だった――そのうえ、きわめて社交的で活動的だった。
パリーに連れて来られると、もの静かなグラチアは、美しい従姉《いとこ》のコレットが大好きになった。コレットは彼女を面白がった。人々はこのやさしい小さな芽生《めば》えを、社交|裡《り》に引き入れたり芝居に連れていったりした。
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