て聞いたもの[#「かつて聞いたもの」に傍点]からは一種の喜びを感ずるものであって、またその喜びのために彼らは、古い作品の中にかつて愛したことのある形式や様式を、知らず知らずのうちにしばしば再現し、もしくは新しい作品中にもそれを愛するものであるが、しかし彼女は音楽的教養がなかったので、そういう喜びを知らなかった。また彼女は、感傷的な旋律《メロディー》にたいするドイツ人の嗜好《しこう》をも、もってはいなかった。(もしくは少なくとも、彼女の感傷性は別種なものであった。そしてクリストフはその欠点をまだ知らなかった。)ドイツで好まれる多少柔弱な平淡さをもってる楽節にたいして、彼女は少しも歓《よろこ》びを示さなかった。彼の歌曲《リード》のうちの最も凡庸《ぼんよう》なもの――友人らが少しでも彼に祝し得るのを喜んで、彼にそのことばかりを言うので、彼が破棄してしまいたいと思ったある旋律《メロディー》、そういうものに彼女は少しも気をひかれなかった。彼女は劇的な本能から、一定の熱情を忌憚《きたん》なく描いた旋律を好んだ。彼が最も重んじていたのも、やはりそういう旋律だった。けれども彼女は、クリストフが自然だと
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