しながら、もうそんなことを考えてくれるなと頼んだ。彼は元来甘えっ子だった。愛情をぶちまけてはいつも母に取り入っていた。昔クリストフはそれを多少ねたんだものだった。しかし今では、最も年下で最も弱い子がまた最も愛せられるのを、当然だと思っていた。彼自身も、たいして年齢が違わないにもかかわらず、エルンストを弟というよりもむしろ、ほとんど息子のように見なしていた。エルンストは彼に非常な尊敬の念を示していた。時には、クリストフが負担してる重荷のこと、金の不自由を忍んでること……などをそれとなく言い出すこともあった。しかしクリストフは言葉をつづけさせなかった。エルンストは卑下したやさしい眼つきで、ただそれを認定するだけにした。彼はクリストフが与える助言に賛成した。健康が回復したら、生活を一変して、真面目《まじめ》に働くつもりでいるらしかった。
彼は回復しかけていた。しかし予後は長かった。その濫用された身体には養生が肝要だと、医者は明言した。それで彼は引きつづいて、母のもとにとどまり、クリストフと床を分ち、兄がかせぎ出してくれるパンや、ルイザが工夫してこしらえてくれるちょっとした御馳走《ごちそう》
前へ
次へ
全295ページ中256ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング