ころであったということを、彼は知った。幸福や恋愛はちょっとの欺瞞《ぎまん》であって、人の心をして武器を捨てさせ地位を失わせるものであるということを、彼は知った。そして、清教徒《ピューリタン》たるこの十五歳の少年は、おのれの神の声を聞いた。
「往《ゆ》け、往け、決して休むことなく。」
「しかし私はどこへ往くのであろう、神よ。何をしても、どこへ往っても、終りは常に同じではないか、終局がそこにあるではないか。」
「死すべき汝《なんじ》は死へ往け! 苦しむべき汝は苦しみへ往け! 人は幸福ならんがために生きてはいない。予が掟《おきて》を履行せんがために生きているのだ。苦しめ。死ね。しかし汝のなるべきものになれ――一個の人間に。」
底本:「ジャン・クリストフ(一)」岩波文庫、岩波書店
1986(昭和61)年6月16日改版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2008年1月27日作成
2009年2月13日修正
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