しくて、皆の仲間にはいるだけの元気もなかった。そして面白くないようなふうを装いながらも、人から誘ってもらいたくてたまらなかった。しかしだれもなんとも言ってくれなかった。彼は憂鬱《ゆううつ》な気持になって、冷淡な様子で遠ざかっていた。
 彼の慰安は、叔父《おじ》のゴットフリートが土地にいる時、いっしょに歩き回ることだった。彼はますます叔父に接近していって、その何物にもとらわれない気質に同感していた。どこにもつなぎ止められないで勝手に放浪することのうちに、ゴットフリートが見出していた喜びを、今では彼もよく理解していた。しばしば彼らはいっしょに、夕方、野の中を、あてもなく、ただまっすぐに歩いて行った。そしてゴットフリートはいつも時間を忘れていたから、よく遅くもどって来ては叱《しか》られた。皆が眠ってる間に、夜分にそっとぬけ出すのも、また楽しみだった。ゴットフリートはそれを悪いと知っていたが、クリストフはむりに強請《せが》んだ。ゴットフリートもその楽しみを制することができなかった。夜半のころ、彼は家の前にやって来て、約束どおりの口笛を吹いた。クリストフは着物を着たまま寝ていた。寝床から滑りぬけ
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