の種となった。第一には彼のすぐれた技倆からであった。彼女は音楽家ではなかったけれども、音楽を愛していた。音楽に肉体的のまた精神的の安楽を見出し、その安楽のうちで彼女の思念は、快い憂愁の中に懶《ものう》く浸り込んでゆくのだった。暖炉のそばにすわり――クリストフが演奏してる間――編物を手にし、ぼんやり微笑《ほほえ》みながら、機械的に編物の指を働かせることに、また、過去のあるいは悲しいあるいは楽しい面影の間に漂っている、自分の夢想の定かならぬ揺めきに、黙々たる愉悦を味わった。
 しかし彼女は音楽よりも、その音楽家の方にいっそう興味を覚えていた。彼女はかなり怜悧《れいり》で、たといクリストフの真の独創の才を見分けることはできなかったにしろ、その稀有《けう》な天稟《てんぴん》を感ずることができた。彼のうちにその不思議な炎がきざしてるのを見て、それが燃え出す様子を見守ることに、好奇な快さを感じた。また彼の精神上の長所、すなわちその方正、その勇気、子供としては感嘆すべき一種の堅忍などを、彼女はすぐに見てとった。それでも彼女はやはり、精緻《せいち》な嘲弄的な眼のいつもの鋭敏さで、彼を眺めてやめなかった
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