から。それに彼女は彼を抱擁してくれた。それは少しも彼の気を悪くはしなかった。
その時彼は、桟敷《さじき》の入口の廊下に、祖父が立ってるのを見つけた。祖父は嬉《うれ》しいような恥ずかしいような様子をしていた。自分もそこにはいって来て何か言いたかったのだろうが、だれも言葉をかけてくれる者がないので、あえてなしかねていた。そしてただ遠くから、孫の光栄を眺めて喜んでいた。クリストフはにわかに燃え立ってくる愛情を感じた。皆にあわれな老人を正当に判断してもらいたかったし、皆にその価値を知られてもらいたかった。彼の舌はほどけてきた。彼は新しい友となった令嬢の耳もとに伸び上がってささやいた。
「内密《ないしょ》のことをきかしてあげましょう。」
彼女は笑って尋ねた。
「なんなの?」
「ご存じでしょう、」と彼はつづけた、「私のメヌエットの中、私のひいたメヌエットの中に、りっぱなトリオがありましたのを。……ご存じでしょう。……(彼はごく低い声でそれを歌った)……あれはね、お祖父《じい》さんがこしらえたんですよ、私じゃないんです。ほかの節《ふし》は皆私のです。けれどあれは、いちばんいいんですよ。お祖父さん
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