ると、その山の霊が岩の中から答えました。
「俺だ」
禿鷹はまたびっくりしました。そして、も一つ他の山にたずねてみようと思って、その方へ飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどの山でしょうか」
「俺《おれ》だ」
そこで禿鷹《はげたか》はなお迷いました。そして方々の山へ行ってはたずねましたが、どの山もみな国中で一番高いのは俺だというのです。
さあ禿鷹は困ってしまいました。山自身に聞いてもわからないとすれば……。その時ふと彼は、山の神のことを思いつきました。国中の山の霊《れい》を支配してる山の神に聞けば、きっとわかるにちがいない。「だが……まてよ」と禿鷹は考えました。「国中で一番高い山に巣を作りたいなどと、明《あか》らさまに言えば、山の神は俺を生意気だと思って、教えてくれないかも知れない。これは一つだまかして聞く方がよさそうだ」
彼は一人うなずいてから、山間《さんかん》の森の中に山の神を訪《おとず》れました。
「いつも御機嫌よろしゅうて、結構でございます」
禿鷹が丁寧《ていねい》に御辞儀《おじぎ》をするのに、山の神は大様《おうよう》にうなずいてみせました。
「うむ そして[#「うむ そして」はママ]お前のような者がわしの所へ来たのは、何の用か」
「はい、私共は山の上に住んでおりますので、山については何一つ知らないことはありません。がただ一つ、国中でどれが一番高い山だか、それがわからないで困っております。私共にとっては、山は言わば自分の家でありまして、国中で一番高い山は、自分の家の一番|貴《とうと》い所でありますから、汚さないように大事にしたいと思っておりますが、さてどれが一番高い山だかわからないのです。山の霊に聞いたらわかるかと思って、一々たずねて廻りましたが、どの山の霊もひどくいばりやで、みんな自分が一番高い山だと申します。それで……」
「ああそのことで来たのか」と山の神は言いました。「山の霊《れい》達はみなそんなにいばっているのか。よろしい、わしがよく言いきかしておいてやる」
「はい、どうぞお願いいたします。そして……」
「いやもうよい。山の霊達にはすぐわしが言いきかしてやるから」
禿鷹《はげたか》は初め、山の神から一番高い山を聞き出すつもりでしたが、話がそんなふうになって、とうとう聞きそびれてしまいました。けれども、山の霊達がいばりさえしなけ
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