が更《ふ》けてきましたから、村の人達は爺さんと猿とを、どこかの家へ泊めようと言い出しました。けれど爺さんは首を振って、その広場に野宿《のじゅく》すると言ってききません。
「家の中よりは、広々とした野天《のてん》に寝る方が気楽でよいからのう」
と爺《じい》さんは言いました。「それから、村の衆《しゅう》へ御礼のしるしに、あの丘のふもとのうまい泉はあのまま残しておいてあげるから、大事にして下されよ」
「ありがとう。……ではまた明日逢いましょう」
そういって村人達は一人ずつ、爺さんと猿とに別れを告げて、家の中へ引き取りました。
そして翌朝早く、村人達はまた広場へやって来ました。ところがもう爺さんと猿とは、影も形も見えませんでした。夜の明けないうちにどこかへ出かけてしまったのでした。名残惜《なごりお》しいけれど仕方《しかた》がありませんので、村人達はせめてもの心やりに、丘のふもとへ行ってみました。するとやはり猿爺さんが約束した通りに、澄みきった冷たい水が湧《わ》き出していて、蜜《みつ》と氷砂糖《こおりざとう》と雪とを交まぜたような、何とも言えないおいしい味でした。
それからというものは、村
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