心しました。そして翌朝になると、半《なか》ば親切から、半ば物珍《ものめずら》しさから、いろんなものを持っていってやりました。米や野菜や布団《ふとん》などはもちろんのこと、病気に利《き》くというほととぎすの黒焼《くろやき》やうなぎの肝《きも》など、めいめい何かしら見舞の品を持っていきました。そして泉の水を一杯ずつ飲ませてもらって、そのうまい味に驚きました。夕方行った者は、キンショキショキ、キンショキショキ……と猿が米をとぐ美しい音に驚きました。
そして猿爺さんの病気は、猿の介抱《かいほう》と村人達との世話《せわ》とで、間もなくなおってしまいました。
病気がなおると、爺さんは猿を連れて村へ御礼に来ました。村の人達も大変喜びました。その晩は、村の広場で酒盛りをしました。村中の人達が寄り集まって、歌うやら踊るやら大騒ぎでした。猿爺さんも猿もまっ赤に酔っぱらって、爺さんは他国のへんてこな歌をうたい、それにつれて猿は首の鈴をチリンチリン鳴らしながら、おかしな踊をしてみせました。子供達ばかりでなく大人《おとな》までも、そのおもしろさに浮かれ騒ぎました。
そのうちに、酒盛りももう終りになって、夜が更《ふ》けてきましたから、村の人達は爺さんと猿とを、どこかの家へ泊めようと言い出しました。けれど爺さんは首を振って、その広場に野宿《のじゅく》すると言ってききません。
「家の中よりは、広々とした野天《のてん》に寝る方が気楽でよいからのう」
と爺《じい》さんは言いました。「それから、村の衆《しゅう》へ御礼のしるしに、あの丘のふもとのうまい泉はあのまま残しておいてあげるから、大事にして下されよ」
「ありがとう。……ではまた明日逢いましょう」
そういって村人達は一人ずつ、爺さんと猿とに別れを告げて、家の中へ引き取りました。
そして翌朝早く、村人達はまた広場へやって来ました。ところがもう爺さんと猿とは、影も形も見えませんでした。夜の明けないうちにどこかへ出かけてしまったのでした。名残惜《なごりお》しいけれど仕方《しかた》がありませんので、村人達はせめてもの心やりに、丘のふもとへ行ってみました。するとやはり猿爺さんが約束した通りに、澄みきった冷たい水が湧《わ》き出していて、蜜《みつ》と氷砂糖《こおりざとう》と雪とを交まぜたような、何とも言えないおいしい味でした。
それからというものは、村
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