とりの男がいました。」
 マリユスはにわかに自分の椅子を、テナルディエの椅子に近寄せた。テナルディエはその動作に目を注いで、相手の心をとらえ一語一語に相手の胸のとどろきを感ずる弁士のように、おもむろに続けていった。
「その男は、政治とは別なある理由のために身を隠さなければならないので、下水道を住居として、そこへはいる鍵《かぎ》を持っていました。重ねて申しますが、それは六月六日でした。晩の八時ごろだったでしょう。その男は、下水道の中に物音を聞いて、非常に驚き、身を潜めて待ち受けました。物音というのは人の足音で、何者かが暗闇《くらやみ》の中を歩いて、彼の方へやってきました。不思議なことに、彼以外にもひとり下水道の中にいたのです。下水道の出口の鉄格子《てつごうし》は遠くありませんでした。それからもれて来るわずかな光で、彼は新らしくきた男が何者であるかを見て取り、また背中に何かかついでるのを知りました。その男は背をかがめて歩いていました。それは前徒刑囚で、肩に担《にな》ってるのは一つの死体でした。でまあ言わば、殺害の現行犯です。窃盗の方はそれから自然にわかることです。人はただで他人を殺すもので
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