。少し日がさす時には、蜥蜴《とかげ》がやってくる。あたりには、野生の燕麦《えんばく》がそよいでいる。春には、木の間に頬白《ほおじろ》がさえずる。
その石には何らの加工も施してない。ただ墓石に用うるということだけを考えて切られたものであり、ただ人をひとりおおうだけの長さと幅とにしようということだけを注意されたものである。
何らの名前も見られない。
ただ、既にもう幾年か前に、だれかが四行の句を鉛筆で書きつけていたが、それも雨やほこりに打たれてしだいに読めなくなり、今日ではおそらく消えてしまったであろう。その句は次のとおりであった。
[#ここから4字下げ]
彼は眠る。数奇なる運命にも生きし彼、
己《おの》が天使を失いし時に死したり。
さあそれもみな自然の数ぞ、
昼去りて夜の来るがごとくに。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]――終わり――
底本:「レ・ミゼラブル(四)」岩波文庫、岩波書店
1987(昭和62)年5月18日改版第1刷発行
※「橙花《オレンヂ》と橙花《オレンジ》」、「挺(何挺《なんちょう》)と梃(一梃)」、「大燭台《だいしょくだい》と大燭台《おおしょくだい》」、「イブとイヴ」、「撥条《ばね》と発条《ばね》」の混在は底本通りにしました。
※誤植の確認に「レ・ミゼラブル(六)」岩波文庫、岩波書店1960(昭和35)年8月30日第12刷、「レ・ミゼラブル(七)」岩波文庫、岩波書店1961(昭和36)年12月10日第13刷を用いました。
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年2月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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