そうして私のまわりには喜びの光が満ち、私の魂の底だけが暗黒なばかりです。しかし人は幸福であるだけでは足りません。満足でなければいけません。そうして私はフォーシュルヴァン氏となっており、自分の本当の顔を隠し、あなたの晴れやかな心の前に私は謎《なぞ》をいだき、あなたの白日の輝きの中に私は影をいだき、何らの警告もせず善良な顔をしてあなたの家庭に徒刑場を引き入れ、もしあなたに知られたら追い払われるに違いないと考えながら、あなたと同じ食卓につき、もし召し使いたちに知られたら実に汚らわしいと言われるに違いないと思いながら、彼らから用をしてもらうことになるのです。当然あなたからきらわれるべき肱《ひじ》をあなたに接し、あなたの握手を騙《かた》り取ることになります。あなたの家では、尊い白髪と烙印《らくいん》をおされた白髪との両方に、尊敬を分かつことになります。最も親しい談話の折り、皆が互いに心の底まで打ち開いてると思ってる時に、あなたのお祖父様《じいさま》とあなた方ふたりと私と四人いっしょにいる時に、そこにはもひとり見知らぬ男がいることになります。私は自分の恐ろしい井戸の蓋《ふた》を開くまいということにばかり注意して、あなた方の生活のうちに立ち交わることになります。そうしてもはや葬られてる私が、生命のあるあなた方の邪魔にはいることになります。私は永久に彼女につきまとうことになります。あなたとコゼットと私と三人とも、緑色の帽子をかぶることになります。あなたはそれでも平然としておられますか。私は最も踏みにじられた人間にすぎません。そしてこんどは最も恐ろしい人間となるわけです。そして毎日罪悪を犯すこととなるでしょう。毎日|嘘《うそ》をつくこととなるでしょう。毎日暗夜の仮面をつけることとなるでしょう。毎日自分の汚辱をあなた方に分かつこととなるでしょう。毎日です、しかも私の愛するあなた方に、私の子供たるあなた方に、潔白なるあなた方にです。黙っているのが何でもないことでしょうか。沈黙を守っているのがわけもないことでしょうか。いえ、わけもないことではありません。沈黙が虚偽となることもあります。しかも私の虚偽、私の欺瞞《ぎまん》、私の汚辱、私の怯懦《きょうだ》、私の裏切り、私の罪悪、それを私は一滴一滴と飲み、また吐き出し、また飲み込み、夜中に終えてはまた昼に始め、そして私の朝の挨拶《あいさつ》も偽り
前へ
次へ
全309ページ中237ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング