が拾われた時よりも後のことであるらしい。おそらく右のものはその草案にすぎなかったろう。
 そのうちに、噂《うわさ》や言葉に次いで、また文書の証拠に次いで、こんどは具体的な事実が現われ始めた。
 ポパンクール街のある古物商の店で、戸棚の引き出しから、皆同じように縦に四つに折られた七枚の灰色の紙が出てきた。その下には、やはり同じ灰色の紙で弾薬莢《だんやくきょう》の形に折られた二十六の箱と、一枚の紙札とが隠されていた。紙札の上には次のことが書いてあった。

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硝石《しょうせき》……十二オンス
硫黄《いおう》……二オンス
木炭……二オンス半
水……二オンス
[#ここで字下げ終わり]

 物件差し押さえの調書によれば、その引き出しには強い火薬のにおいがしていた由である。
 ひとりの泥工が、一日の仕事を終えて家に帰る時、オーステルリッツ橋のそばのベンチの上に小さな包みを置き忘れていった。その包みは衛舎に持ってゆかれた。開いてみると中には、ラオーティエール[#「ラオーティエール」に傍点]と署名した二つの対話の印刷物と、労働者よ団結せよ[#「労働者よ団結せよ」に傍点]という題の小
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