が拾われた時よりも後のことであるらしい。おそらく右のものはその草案にすぎなかったろう。
そのうちに、噂《うわさ》や言葉に次いで、また文書の証拠に次いで、こんどは具体的な事実が現われ始めた。
ポパンクール街のある古物商の店で、戸棚の引き出しから、皆同じように縦に四つに折られた七枚の灰色の紙が出てきた。その下には、やはり同じ灰色の紙で弾薬莢《だんやくきょう》の形に折られた二十六の箱と、一枚の紙札とが隠されていた。紙札の上には次のことが書いてあった。
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硝石《しょうせき》……十二オンス
硫黄《いおう》……二オンス
木炭……二オンス半
水……二オンス
[#ここで字下げ終わり]
物件差し押さえの調書によれば、その引き出しには強い火薬のにおいがしていた由である。
ひとりの泥工が、一日の仕事を終えて家に帰る時、オーステルリッツ橋のそばのベンチの上に小さな包みを置き忘れていった。その包みは衛舎に持ってゆかれた。開いてみると中には、ラオーティエール[#「ラオーティエール」に傍点]と署名した二つの対話の印刷物と、労働者よ団結せよ[#「労働者よ団結せよ」に傍点]という題の小唄《こうた》と、弾薬のいっぱいつまってるブリキ罐《かん》とがあった。
ひとりの労働者が仲間のひとりと酒を飲んでいたが、こんなにほてると言って身体にさわらした。すると仲間は、彼の上衣の下にピストルがあるのを手先に感じた。
ペール・ラシューズ墓地とトローヌ市門との間の大通りの溝《みぞ》の中に、ごく寂しい所で遊んでいた子供らが、木片や塵芥《じんかい》のうずたかい下に一つの袋を見いだした。中には種々なものがはいっていた、弾丸の鋳型、弾薬莢《だんやくきょう》を作るに用いる木製の軸、狩猟用の火薬の粒がはいってる鉢《はち》、内部には明らかに鉛をとかした跡が残ってる小さな坩堝《るつぼ》。
ある日朝の五時に、警官らは不意にパルドンという男の家へ踏み込んだことがある。この男は後に、一八三四年四月の暴動の折り、バリカード・メリー区隊のうちにはいって戦死した者である。その朝警官らがふみ込むと、ちょうど彼は寝床のそばにつっ立って、製造中の弾薬莢を手に持ってるところだった。
労働者らが休息する時分に、ピクピュス市門とシャラントン市門との間の、入り口にシアム遊びができてるある居酒屋の近くの、両側に壁のある狭
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