ス。しかし実際この修道院の寄宿舎を出たばかりの少女は、ある微妙な洞察力《どうさつりょく》をもって話をし、時々真実なみごとな言葉を発した。そのむだ口もみなりっぱな会話となっていた。何事にも見当違いはなく、正当な見方をしていた。およそ女は、決して物を誤ることのないやさしい心の本能をもって、感じまた語るものである。いかに女がやさしくまた同時に深遠なことを語るものであるか、それを知る人は少ない。優美と深遠、そこに女の全部があり、そこに天の全部がある。
そういう至福のうちにあって、涙は絶えず彼らふたりの目に上ってきた。踏みつぶされてる一匹の虫、巣から落ちてきた一本の鳥の羽、折れてる野薔薇《のばら》の一枝、そういうものも彼らの心を動かして、静かにうれいに浸ってる彼らの恍惚《こうこつ》たる感情は、ただ泣くことをのみ求めてるかのようであった。往々にして愛の兆候は、時にはたえ難いほどのやさしい情であることが多い。
そしてまた一方では――すべてこれらの矛盾は愛のひらめきの戯れである――彼らは好んでよく笑い、しかも快い自由さをもって、また時にはほとんど子供になったかと思われるほど親しげに、笑うのであった。けれども、清浄さに酔っている心から気づかれずに、忘るべからざる本性は常にそこにあるものである。本性はその動物的なまた崇高な目的を持ってそこに存している。魂はいかに潔白であろうとも、最も清い交わりのうちにも、恋人同志と朋友《ほうゆう》同志とを区別する神秘な讃《ほ》むべき色合の差を、人は感ずるものである。
彼らは互いに欽慕《きんぼ》し合った。
恒久にして不変なるものも存在する。互いに愛し、互いにほほえみ、互いに笑い、脣《くちびる》をちょっとゆがめては互いにすねてみ、手の指を組み合わし、へだてなくささやきかわす。しかもそれは永遠を妨げないのである。ふたりの恋人は、夕暮れのうちに、薄暮のうちに、見えざるもののうちに、小鳥とともに、薔薇とともに身を隠し、目の中に心をこめて影のうちで魅惑し合い、互いにささやきかわし耳語し合う。そしてその間|星辰《せいしん》の広大なるひらめきが無限の空間を満たしている。
二 恍惚《こうこつ》たる至福
ふたりは幸福に酔い茫然《ぼうぜん》として日を送っていた。ちょうどその月にパリーを荒していたコレラ病にも気を止めなかった。彼らは何事もみな打ち明け合
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