は叫んだ、「ごくいい気持ちだぜ。」それから年上の方に言った。「お前上れ、手を引っ張ってやるから。」
ふたりは互いに肩をつき合って先を譲った。しかし浮浪少年は彼らをこわがらせると同時にまた安心さしていた。その上雨もひどく降っていた。で年上の方がまずやってみた。年下の方は兄が上ってゆくのを見、自分ひとり大きな動物の足の間に取り残されたのを見て、泣き出したいような心地になったが、それをじっとおさえた。
年上の方は梯子を一段一段とよろめきながら上っていった。ガヴローシュはその間、撃剣の先生が生徒を励ますように、また馬方が騾馬《らば》を励ますように、声をかけて力づけてやった。
「こわくはない。」
「そうだ。」
「そのとおりやるんだ。」
「そこに足をかけて。」
「こっちにつかまって。」
「しっかり。」
そして子供が手の届く所まで来ると、彼はいきなり強くその腕をつかんで引き上げた。
「よし。」と彼は言った。
子供は穴の縁を越した。
「ちょっと待っておれ。」とガヴローシュは言った。「どうぞ席におつき下さいだ。」
そして、はいったのと同じようにして穴からいで、猿のようにすばしこく象の足をすべりおり、草の上にすっくと飛びおりて、五歳の子供を鷲づかみにし、はしごの中ほどにそれを据え、その後から上りながら、年上の方に叫んだ。
「俺が押すから、お前は引っ張るんだぞ。」
たちまちのうちに子供は、上げられ、押され、引きずられ、引っ張られ、知らない間に穴の中へ押し込まれてしまった。ガヴローシュはそのあとからはいってきながら、踵《かかと》で一蹴してはしごを草の上に投げ倒し、手をたたいて叫んだ。
「さあよし。ラファイエット将軍万歳!」([#ここから割り注]訳者注 常に革命に味方せる当時の将軍[#ここで割り注終わり])
その感興が静まると、彼はつけ加えて言った。
「お前たちは俺《おれ》の家にきたんだぜ。」
ガヴローシュは実際自分の家に落ち着いたのだった。
実に廃物の意外なる利用である。偉大なる事物の恵み、巨人の好意である。皇帝の思想を含有するこの大なる記念物は、一浮浪少年を入るる箱となった。小僧はその巨像から迎えられて庇護《ひご》された。日曜日の晴れ着をつけてバスティーユの象の前を通る市民らは、軽蔑《けいべつ》の様子で目を見張ってながめながら好んで言った、「あんなものが何の役に立とう?
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