卑小を作り上げることができたのである。
このストーブの煙筒は、七月記念塔といういかめしい名前を冠せられたものであり、流産した革命([#ここから割り注]七月革命[#ここで割り注終わり])のはんぱな記念碑であるが、一八三二年にはまだ、惜しいことには、大きな足場構えでおおわれていて、その上象を孤立さしてしまった広い板囲いでとりまかれていた。
今浮浪少年がふたりの「餓鬼」を連れて行ったのは、遠い街灯の光が届くか届かないくらいのその広場の片すみの方へであった。
余事ではあるがここに一言ことわっておくのを許してもらいたい。われわれはただありのままの事実を話しているのである。そして、軽罪裁判所で、浮浪ならびに公共建築物破壊の名の下に、バスティーユの象の中に寝てるところを押さえられたひとりの子供が裁かれたのは、今から二十年前のことであった。
これだけの事実を述べておいて、話を先に進めよう。
大きな象の方へ近づきながらガヴローシュは、ごく大きなものがごく小さなものの上に与える感じを察して、こう言った。
「お前たち、こわがることはないんだぜ。」
それから彼は板囲いの破れ目から象の囲いの中にはいり、ふたりの子供を助けてその入り口をまたがした。ふたりは少し驚いて、一言も口をきかずにガヴローシュのあとに従い、自分たちにパンをくれ宿所を約束してくれたそのぼろを着た小さな天の使いに万事を任した。
そこには、そばの建築材置き場で職人らが昼間使ってる一つのはしごが、板囲いの根本に横たえてあった。ガヴローシュは非常な力を出してそれを持ち上げ、象の前足の一つにそれを立て掛けた。梯子《はしご》の先が届いてる所に、象の腹にあいてる暗い穴が見えていた。
ガヴローシュはその梯子と穴とをふたりの客人にさし示して言った。
「上っていってはいるんだ。」
ふたりの小さな子供は恐れて互いに顔を見合った。
「こわいんだね。」とガヴローシュは叫んだ。
そして彼は言い添えた。
「やって見せよう。」
彼は象の皺《しわ》のある足に手をかけ、梯子を使おうともせず、ひらりと穴の所へ飛び上がった。そして蛇が穴にはい込むようにその中にはいって、見えなくなった。けれど間もなく、青白いぼんやりした幽霊のように、まっくらな穴の縁に彼の顔がぼーっと浮かび出してくるのを、ふたりの子供は見た。
「さあお前たちも上ってこい、」と彼
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