まらねえ。それぐらいのことに泣いてるのか。カナリヤみたいだな。」
そして年長者らしい嘲弄《ちょうろう》半分の気持から、少しかわいそうに見下すようなまたやさしくいたわるような調子で言った。
「まあ俺《おれ》といっしょにこいよ。」
「ええ。」と年上の方が言った。
そしてふたりの子供は、大司教のあとにでもついてゆくようにして彼のあとに従った。もう泣くのをやめていた。
ガヴローシュは彼らを連れて、サン・タントアーヌ街をバスティーユの方へ進んでいった。
彼は歩きながら、ふり返って理髪屋の店をじろりとにらんだ。
「不人情な奴《やつ》だ、あの床屋め。」と彼はつぶやいた。「ひどい野郎だ。」
ガヴローシュを先頭に三人が一列になって歩くのを見て、ひとりの女が大声に笑い出した。三人に敬意を欠いた笑い方だった。
「こんちは、共同便所お嬢さん。」とガヴローシュはその女に言った。
それからすぐにまた、理髪師のことが頭に浮かんできて、彼はつけ加えた。
「俺《おれ》は畜生を見違えちゃった。あいつは床屋じゃねえ、蛇《へび》だ。ようし、錠前屋を呼んできて、今にしっぽに鈴をつけさしてやらあ。」
理髪師は彼の気をいら立たしていた。ブロッケン山([#ここから割り注]訳者注 ワルプルギスの魔女らの会合地と思われていた所[#ここで割り注終わり])でファウストに現われて来るにもふさわしいようなある髯《ひげ》のある門番の女が、手に箒《ほうき》を持って立っていると、彼は溝《どぶ》をまたぎながら呼びかけた。
「お前さんは馬に乗って出て来るといいや。」
その時、彼は一通行人のみがき立ての靴《くつ》に泥をはねかけた。
「ばか野郎!」と通行人はどなった。
ガヴローシュは肩掛けの上に顔を出した。
「苦情ですか。」
「貴様にだ!」と通行人は言った。
「役所はひけましたよ、」とガヴローシュは言った、「もう訴えは受け付けません。」
その街路をなお進みながらやがて彼は、十三、四歳の乞食娘《こじきむすめ》が、膝《ひざ》まで見えるような短い着物を着て、ある門の下に凍えて立ってるのを見た。小さな娘は着のみ着のままであまり大きくなり始めてるのだった。生長はそういう悪戯《いたずら》をすることがある。裸体がふしだらとなる頃には、衣裳《いしょう》は短かすぎるようになる。
「かわいそうだな!」とガヴローシュは言った。「裾着《すそぎ
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