なさい。そして明日《あした》アラスへ行くだね。」
「今晩行かなくちゃならないんだ。」
「ではだめだ。それじゃあやはりタンクの宿へ行って、なお一頭馬をかりるだね。そして馬丁に道を案内してもらうだね。」
 彼は道路工夫の助言に従って、道を引き返していった。そして三十分後には、りっぱな副馬《そえうま》をつけて大駆けに同じ所を通っていた。御者だと自ら言ってる馬丁は、馬車の轅《ながえ》の上に乗っていた。
 それでも彼はなお急ぎ方が足りないような気がした。
 もうまったく夜になっていた。
 彼らは横道に進み入った。道は驚くほど悪くなった。馬車はあちこちの轍《わだち》の中へ落ちこんだ。彼は御者に言った。
「どしどし駆けさしてくれ。酒代《さかて》は二倍出す。」
 道のくぼみに一揺れしたかと思うと、馬車の横木が折れた。
「旦那《だんな》、」と御者は言った、「横木が折れましたぜ。これじゃ馬のつけようがありません。この道は夜はひどいですからな。旦那がこれからタンクへ戻って泊まるんなら、明日《あした》は早くアラスへ行けますが。」
 彼は答えた。「繩《なわ》とナイフはないかね。」
「あります。」
 彼は一本の木
前へ 次へ
全639ページ中533ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング