彼はも一つ文句を書いていた。「余もまた彼らのごとく医師に非《あら》ざるか。余もまた余が患者を有す。第一に、彼らが病人と称する彼らの患者を余は有し、次に、余が不幸なる者と呼ぶ余の患者を有するなり。」
 他に彼はまたしるした。「汝に宿を求むる者にその名を尋ぬべからず。自ら名乗るに心苦しき者こそ特に避難所を要する人なればなり。」
 ある日のことたまたま、クールーブルーの司祭であったかまたはポンピエリーの司祭であったかちょっとわからないが、あるりっぱな主任司祭が、たぶんマグロアールに説かれてであろう、司教に次のことを尋ねてみた。だれでもはいろうとする人の意のままに昼夜戸を開いておくことは、ある意味において軽率なふるまいとはならないと信ずるのであるか、そしてまた、かくも締りのない家のうちに何か不幸な事が起こりはしないかを恐れないのであるか。すると司教は、おごそかに、しかもやさしく司祭の肩に手を置いて言った。「神が家を守って下さらなければ[#「神が家を守って下さらなければ」に傍点]、人がいかにそれを守っても無益です[#「人がいかにそれを守っても無益です」に傍点]。」それから彼は顧みて他のことを言っ
前へ 次へ
全639ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング