ン・ヴァルジャンという名前が落ちかかったので、証拠なんかはどうでもよくなったのであろう。いったい検事などという者はいつもそういうふうなやり方をするではないか。囚人だというので、盗人だと考えられたのだ。」
またある瞬間に彼はこうも考えた。自分が自首して出たならば、自分の勇壮な行為と、過去七年間の正直な生活と、この地方のために尽した功績とは、十分に考量されて許されることになるかも知れない。
しかしそういう想像はすぐに消え失せてしまった。そして彼は苦笑しながら考えた。プティー・ジェルヴェーから四十スーを盗んだことは、自分を再犯者となすものである。その事件も必ずや現われて来るであろう。そして法律の明文によって自分は終身懲役に処せらるるであろう。
彼はついにすべての妄想《もうそう》を断ち切って、しだいに地上を離れ、他の所に慰安と力とを求めた。彼は自ら言った。自分は自己の義務を果たさなければならない。義務を避けた後よりも義務を果たした後の方が、より不幸になるということがあり得ようか。もし成り行きに任せ[#「成り行きに任せ」に傍点]、モントルイュ・スュール・メールにとどまっているならば、自分の
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