近くにあって祈祷所《きとうしょ》の方に通じ、も一つは書棚の近くにあって食堂の方に通じていた。書棚は大きなガラス戸棚で書物がいっぱいつまってい、暖炉は大理石模様に塗られた木がつけられていて通例は火がなかった。暖炉のうちに鉄の薪台が一対あって、以前は銀粉を塗られていた花帯と丸みぞとで飾られてる二つの花びんが備えてあった。それは司教の家の一種のぜいたく品となっていた。その上の方の普通鏡が置かれる場所には、銀色のはげ落ちた銅製の十字架像が、金箔《きんぱく》のはげた木のわくのうちに、すり切れた黒ビロードに留めてあった。出入り口の近くに、インキ壺《つぼ》の置いてある大きな卓があって、上には雑多な紙や分厚な書物がのっていた。卓の前に藁の肱掛椅子《ひじかけいす》があった。寝台の前には祈祷所から持ってこられた一つの祈念台があった。
 楕円形《だえんけい》のわくの中に入れられた二つの肖像が寝台の両側に壁にかけられていた。画布の余地に像の横に小さな金文字がその名をしるしていた。一人はサン・クロードの司教であるド・シャリオ師であり、一人はアグドの副司教でありグラン・シャンの修道院長でありシャルトル教区のシトー
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