もう払えない。一週間以内に四十フラン送らなければ、子供は死ぬかも知れない。」
 ファンティーヌは大声に笑い出した、そして隣の婆さんに言った。「まあおめでたい人たちだわ。四十フランですとさ。ねえ、ナポレオン金貨二つだわ。どうして私《あたし》にそんなお金がもうけられると思ってるんでしょう。ばかなものね、この田舎の人たちは。」
 それでも彼女は軒窓の近くへ階段を上っていって、手紙を読み返した。
 それから彼女は階段をおりて、笑いながらおどりはねて出て行った。
 出会った人が彼女に言った。「何でそんなにはしゃいでるの。」
 彼女は答えた。「田舎の人たちがあまりばかばかしいことを書いてよこすんですもの。四十フラン送れですとさ。ばかにしてるわ。」
 彼女が広場を通りかかった時、そこには大勢の人がいて、おかしな形の馬車を取り巻いていた。馬車の平屋根の上には、赤い着物を着た一人の男が立って何か弁じ立てていた。それは方々を渡り歩く香具師《やし》の歯医者で、総入れ歯や歯みがき粉や散薬や強壮剤などを売りつけていた。
 ファンティーヌはその群集の中に交じって、卑しい俗語や上品な壮語の交じった長談義をきいて、他
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