母親は言った。「子供を裸で置いてゆくなんて、そんな変なことができましょうか。」
主人の顔がそこに現われた。
「それでよろしい。」と彼は言った。
取り引きはきまった。母親はその一晩をその宿屋で過ごし、金を与え、子供を残し、子供の衣類を出してしまって軽くなった手鞄の口をしめ、そして翌朝、間もなく戻って来るつもりで出立つした。そういう出立つは静かになされる、がその心は絶望である。
テナルディエの近所の一人の女が、立ち去ってゆくその母親に出会った、そして帰ってきて言った。
「通りで泣いてる女を見ましたが、かわいそうでたまらなかった。」
コゼットの母親が出発してしまった時、亭主は女房に言った。
「これで明日《あした》が期限になってる百十フランの手形が払える。五十フランだけ不足だったんだ。執達吏と拒絶証書とを差し向けられるところだった。うまくお前は子供どもで罠《わな》をかけたもんだね。」
「別にそういうつもりでもなしにさ。」と女は言った。
二 怪しき二人に関する初稿
捕えられた鼠《ねずみ》はきわめて弱々しかった。しかし猫《ねこ》はやせた鼠をも喜ぶ。
一体そのテナルディエ夫
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