過度の不幸は、前に述べたとおり、彼をして一種の幻覚者たらしめていた。で、このことも一つの幻影に似ていた。彼は本当に自分の前に、ジャン・ヴァルジャンを、その凄愴《せいそう》な顔を見た。その瞬間彼は、その男がだれであるか、自ら怪しみ、その男に嫌悪《けんお》の念をいだいた。
彼の頭は、幻想がいかにも深刻で現実をのみ尽さんとする、あの激越なしかも恐ろしく静かな瞬間の一つにあった。かかるとき人は、もはやおのれの周囲にある事物は目に止まらず、おのれの精神のうちにある像《すがた》をおのれの外にあるかのように目に見るものである。
そして彼は、言わば面と向かって自己をうちながめ、同時に、その幻覚を通してある神秘な奥深い所に一種の光明を見た。彼は最初それを炬火《たいまつ》の炎のようにも思った。が自分の本心のうちに現われてきたその光明をいっそう注意してながめていると、それが人間の形をそなえていることを知った、そしてその炎は司教であることを知った。
彼の本心は、かくおのれの前に置かれた二人の者、司教とジャン・ヴァルジャンとを、かわるがわるうちながめた。後者をうち砕かんがためには前者でなければならなかっ
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