事は彼に決定的な効果を及ぼした。その一事は、彼の知力のうちの混沌《こんとん》たるものを突然貫いて、それを消散させ、一方に濃い暗黒と他方に光明とを分かち、その時の状態の彼の魂に働きかけて、あたかもある化学的反応体が混沌たる混和物の上に働いて、一の原素を沈澱《ちんでん》させ他の原素を清澄ならしむるがような作用を及ぼしたのである。
 彼はまず第一に、よく自らを顧み熟慮する前に、身をのがれんとする者のようにただむやみと、金を返すために少年を見つけだそうとつとめた。それから、それがむだなことでまたでき得ないことであるのを知った時に、絶望して立ち止まった。ああ俺は惨《みじ》めな男だ! と叫んだとき、彼は自分のありのままの姿を認めていたのであった。そして彼は自分自身がもはや一つの幻であるように思われたほど既に自己を絶した地点にあって、肉と骨とをそなえた醜い囚人ジャン・ヴァルジャンの方は、手に杖を握り、胴に仕事着をまとい、窃盗品でいっぱいになってる背嚢《はいのう》を背に負い、決然たるしかも沈鬱《ちんうつ》なる顔をし、のろうべき企《たく》らみに満ちてる思念をいだいて、そこに彼の前に立っていたのである。

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