一は身を亡《ほろ》ぼし一は身を救う二つの深淵の間に躊躇《ちゅうちょ》していたとも言えよう。その眼前の頭脳を打ち砕くか、もしくはその手に脣《くちびる》をつけるか、いずれかをしようとしているもののようであった。
数分の後、彼の左手はおもむろに額に上げられた。彼は帽子をぬいだ。それから手は同じくおもむろに、また下された。そしてジャン・ヴァルジャンはまたうちながめはじめた、帽子を左手に持ち、棍棒《こんぼう》を右手に持ち、あらあらしい頭の上に髪の毛を逆立たして。
司教はその恐るべき凝視の下にあって、なお深き平和のうちに眠っていた。
月の光の反映は、暖炉の上に十字架像の姿をぼんやり見せていた。それは両手を開いて、一人には祝福を与え一人には赦免《しゃめん》を与えるために、その二人を抱かんとするかのようであった。
突然、ジャン・ヴァルジャンは額に帽をかぶった。それから、司教の方を見ずに寝台に沿って足を早めながら、その枕頭に見えている戸棚の方へまっすぐに行った。彼は錠前をこじあけようとするかのように鉄の燭台を高くあげた。が、そこには鍵《かぎ》がついていた。彼は開いた。第一に彼の目にはいったものは
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