の破滅だと思った。
彼はその場に立ちつくした。塑像《そぞう》のように固まってあえて身動きもなし得なかった。
数分過ぎた。扉はすっかり大きく開いていた。彼はふと室の内をのぞき込んでみた。何物も動いてはいなかった。彼は耳を澄ました。家の中には何も物の蠢《うご》めく気配もなかった。さびついた肱金《ひじがね》の音はだれの眠りをもさまさなかったのである。
その第一の危険は過ぎ去ったが、しかしなお彼のうちには恐ろしい胸騒ぎがあった。けれども彼はもう後に退かなかった。もはや身の破滅だと思った時でさえ、彼は退かなかったのである。彼はもうただ早くやり遂げようということしか考えなかった。彼は一歩ふみ出して、室の中にはいった。
室の中はまったく静まり返っていた。あちらこちらに雑然とした漠然《ばくぜん》たる形が認められた。それは昼間見れば、テーブルの上に散らばった紙や、開かれたままの二折本や、台の上に積み重ねられた書籍や、着物の置いてある肱掛椅子や、祈祷台などだとわかるが、その時にはただ暗いすみやほの白い場所などを作ってるだけだった。ジャン・ヴァルジャンは器物にぶっつからないようにしながら用心して足を
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