でさ。」
「繩《なわ》で輻《や》を縛ったら?」
「輻はそれでいいでしょうが、轂《こしき》はそういきません。その上|※[#「車+罔」、第3水準1−92−45]《たが》もいたんでます。」
「町に貸し馬車屋はいないのか。」
「いません。」
「ほかに車大工はいないのか。」
 馬丁と親方とは頭を振って同時に答えた。
「いません。」
 彼は非常な喜びを感じた。
 それについて天意が働いていることは明らかであった。馬車の車輪をこわし、途中に彼を止めたのは、天意である。しかも彼はその最初の勧告とでもいうべきものにすぐ降伏したのではなかった。あらゆる努力をして旅を続けようとした。誠実に細心にあらゆる手段をつくしてみた。寒い季節をも疲労をも入費をも、意に介しなかった。彼はもはや何ら自ら責むべきところを持ってはいなかった。これ以上進まないとしても、それはもはや彼の責任ではなかった。それはもはや彼の罪ではなかった。彼の本心の働きではなく、実に天意のしからしむるところであった。
 彼は息をついた。ジャヴェルの訪問いらい初めて、自由に胸いっぱいに息をした。二十時間の間心臓をしめつけていた鉄の手がゆるんできたような思いがした。
 今や神は彼の味方をし、啓示をたれたもうたように、彼には思えた。
 すべてでき得る限りのことはなしたのだ、そして今ではただ静かに足を返すのほかはない、と彼は自ら言った。
 もし彼と車大工との会話が宿屋の室の中でなされたのであったら、そこに立会った者もなく、それを聞いた者もなく、事はそのままになっただろう。そしておそらく、われわれがこれから読者に物語らんとするできごとも起こらなかったろう。しかしその会話は往来でなされたのだった。往来の立ち話は、いつも必ず群集をそのまわりに集めるものである。外から物事を見物するのを好む者は常に絶えない。彼が車大工にいろいろ尋ねている間に、行き来の人たちが二人のまわりに立ち止まった。そのうちの人の気にもとまらぬ一人の小さな小僧が、しばらくその話をきいた後、群集を離れて向こうに駆けて行った。
 旅客が前述のように内心で考慮をめぐらした後、道を引き返そうと決心したちょうどその時に、その子供は戻ってきた。彼は一人の婆さんを伴っていた。
「旦那《だんな》、」と婆さんは言った、「倅《せがれ》が申しますには、旦那は馬車を借りたいそうでございますね。」
 子
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