た。彼はその二つの大時計が十二打つ音を数えた。そしてその二つの鐘の音を比較してみた。その時彼は、ある金物屋で数日前に見た売り物の古い鐘の上に、ロマンヴィルのアントアーヌ[#「ロマンヴィルのアントアーヌ」に傍点]・アルバン[#「アルバン」に傍点]という名前が刻まれていたのを思い出した。
彼は寒気《さむけ》がした。そして少し火をたいた。窓をしめることには気がつかなかった。
そのうちに彼は昏迷《こんめい》の状態にまた陥っていた。十二時を打つ前に考えたことを思い出すのに、かなりの努力をしなければならなかった。ついにそれが思い出せた。
「ああそうだ、」と彼は自ら言った、「私は自首しようと決心したのであった。」
それから突然彼はファンティーヌのことを考えた。
「ところで、」と彼は言った、「あのかわいそうな女は!」
そこにまた新しい危機が現われた。
彼の瞑想《めいそう》のうちに突然現われたファンティーヌは、意外な一条の光のごときものであった。彼には自分のまわりのすべてがその光景を変えたように思われた。彼は叫んだ。
「ああ私は今まで自分のことしか考えなかった。私は自分一個の都合ばかりしか考えなかったのだ! 沈黙すべきかあるいは自首すべきか、自分の身の上を隠すかあるいは自分の魂を救うか、賤《いや》しむべきしかし世人に尊敬さるる役人となるか、あるいは恥ずべきしかし尊むべき囚人となるか、それは私一個のこと、常に私一個のことであり、私一個のことにすぎない。しかしああ、それらすべては自己主義である。自己主義の種々の形ではあるが、とにかく自己主義たる事は一つである。もし今少しく他人のことを考えたならば! およそ第一の神聖は他人のことを考えることである。さあ少し考えてみなければいけない。自己を除外し、自己を消し、自己を忘れてしまったら、すべてそれらのことはどうなるであろう?――もし私が自首して出たら? 人々は私を捕え、そのシャンマティユーを許し、私を徒刑場に送るであろう。それでよろしい。そして? ここはどうなるであろう。ああここには、一地方、一つの町、多くの工場、一つの工業、労働者、男、女、老人、子供、あわれなる人々がある。それらのものを私はこしらえた。私はそれらを生かしてやった。すべて煙の立ちのぼる煙筒のある所、その火のうちに薪《まき》を投じその鍋《なべ》のうちに肉を入れてやったのは
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