終えると、彼は紙入れとともにそれをポケットに入れ、そしてまた歩き初めた。
 彼の瞑想《めいそう》は少しもその方向を変じていなかった。彼は光り輝く文字に書かれた自分の義務をなお明らかに見ていた。その文字は彼の眼前に炎と燃え、視線を移すごとについて回った。「行け[#「行け」に傍点]! 汝の名を名乗れ[#「汝の名を名乗れ」に傍点]! 自首して出よ[#「自首して出よ」に傍点]!」
 彼はまた、これまで彼の生活の二つの規則となっていた二つの観念を、あたかもそれが目に見える形となって眼前に動き出したかのようにじっと見つめた。汝の名前を隠せよ! 汝の魂を聖《きよ》めよ! それらの二つは初めて全然別になって見えてきた。そしてその二つが互いにへだたっている距離を彼は見た。その一つは必ずや善《よ》きものであり、も一つは悪きものともなり得るものであることを、彼は認めた。一は献身であり、他は自己中心である。一は隣人[#「隣人」に傍点]を口にし、他は自己[#「自己」に傍点]を口にする。一は光明からきたり、他は暗黒から来ると。
 その二つは互いに争っていた。彼はその二つが相争うのを見た。彼が黙想するに従って、その二つは彼の心眼の前に大きくなってゆき、今では巨人のごとき姿となっていた。そして彼自身のうちにおいて、先ほど述べたあの無限のうちにおいて、暗黒と光明との間に、神と巨人との争うのを彼は見るように思った。
 彼は恐怖に満たされた。しかし善の考えが勝利を得るように見えた。
 彼は新たに自分の本心と運命との決定的時期に遭遇しているように感じた。司教は彼の新生涯の第一期を画し、あのシャンマティユーはその第二期を画しているように感じた。大危機の後に大試練がきたのである。
 そのうちにまた一時しずまっていた熱はしだいに襲ってきた。無数の考えが彼の脳裏を過ぎた。しかしそれはただ彼の決心をますます強固にするのみだった。
 ある瞬間には彼は自ら言った。「私はあまり事件を大袈裟《おおげさ》に考えすぎているのかも知れない。結局そのシャンマティユーなる者は大した者ではない。要するに彼は盗みをしたのだ。」
 彼は自ら答えた。「その男が果して林檎《りんご》をいくらか盗んだとしても、一カ月の監禁くらいのものだ。徒刑場にはいるのとはずいぶん差がある。そして彼が盗んだということもわかったものではない。証拠があったのか。ジャ
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