製造して五十万ばかりを得たのだった。一生のうちで彼は一人の不幸な人にも施しをしたことがなかった。がこの説教いらい、大会堂の玄関にいる年をとった乞食《こじき》の女どもに、日曜ごとに一スー([#ここから割り注]訳者注 一スーは一フランの二十分の一[#ここで割り注終わり])を与えている彼の姿が見られた。その一スーを乞食の女たち六人は分けなければならなかった。ある日司教はジェボランがいつもの慈善をしているのを見て、ほほえみながら妹に言った。「そらジェボランさんが一スーで天国を買っているよ[#「そらジェボランさんが一スーで天国を買っているよ」に傍点]。」
慈善に関する場合には、司教はたとい拒まれてもそのまま引っ込むことをしなかった、そして人をして再考せしむるような言葉を発するのだった。かつて彼は町のある客間で、貧民のために寄付金を集めたことがあった。そこには、老年で富裕で貪慾《どんよく》で、過激な王党であるとともに過激なヴォルテール党ともなるシャンテルシエ侯爵がいた。そういう変わった男もずいぶんいたものである。司教は彼の所へ行ってその腕を捉《とら》えた。「侯爵[#「侯爵」に傍点]、あなたは私に何か下さらなければなりません[#「あなたは私に何か下さらなければなりません」に傍点]。」侯爵はふり向いて冷淡に答えた。「私にもまた自分の貧民があるんです[#「私にもまた自分の貧民があるんです」に傍点]。」「それを私にいただきたいのです[#「それを私にいただきたいのです」に傍点]、」と司教は言った。
ある日司教は大会堂で次の説教をした。
「親愛なる兄弟たち、善良なる皆さん、フランスには、ただ三個の開《あ》き口だけを持ってる民家が百三十二万戸、一つの戸口と一つの窓との二つの開き口だけを持ってる民家が百八十一万七千戸、最後に一つの戸口すなわち一つの開き口だけを持ってる茅屋《ぼうおく》が三十四万六千戸あります。そしてそれは戸口および窓の税と呼ばるるものから由来してるのであります。貧しい家族、年老いた女や幼い小児を、これらの家に起臥《きが》せしめる、熱病やその他病気が起こるのは明らかです。ああ神は人に空気を与えたもう、しかも法律は人に空気を売る。私は法律を咎《とが》むるのではありません。しかし私は神を讃《たた》えるのです。イゼール県、ヴァール県、上下両アルプ二県などにおいては、農夫は手車をも持
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