人のおばさんの室へ行って借りて読んだ。ふだんは、自分のところへ来る一つの新聞さえろくに覗かない彼である。
 おばさんは眉をひそめて言った。
「たいへん御熱心ね。」
「この近くに起った事件ですよ。」
「自殺でしょうか、それとも、他殺でしょうか。島野さんはどう思いますの。」
「それが、問題です。まあ、自分で死のうと思っていたのに、気後れがして、他人から手伝って貰って死んだ、というところでしょうか。」
 彦一は平然と、多少皮肉な微笑さえ浮べて、自分の見解を披瀝するのだった。
 あの少年は、少しく低能でそして浪費癖があったという。だいたい、低脳な者は大食いだし、随って浪費癖はつきものだ。彼もまた、店の中華ソバばかりでは食い足りなくて、金を持ち出しては買い食いをする。その揚句、農村へ追いやられる話まで起って、これが大打撃となった。農村の労働と、そして粗食を、彼は知ってた筈だ。それからまだ、新聞記者が探り出さない事柄もあったに違いない。伯父夫婦も私生活については余り語りたがらなかったろう。とにかく、いろいろな原因が重って少年は死ぬ気になった。
 なにか衝撃を受けて、一時にかっと逆せ上り、やけくそに
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